西域の某国より使者使わされれば、果たしてそれが誰かすら存ぜねど、取りも敢えずは中央市場へ向かえとの御神託もありて、アーケードにて覆われる商店街なんぞ彷徨、然れば突如アオザイの如きを纏う女性に腕を取られ「こっち!こっち!」と急かされれば、辿り着きしは木造なれどモノレール駅と思しきか、而して乗車せんとされるかと思えば然にあらずして、徐ろにプラットホームよりホーム端の螺旋階段へと駆けられれば、何と此処は地上25階なりて、螺旋階段の上より見下ろせば、まるで渦巻に吸い込まれんと錯覚する有様、況してよくよく眺むれば、螺旋階段に手摺が付いておらぬ有様、途中数階分なんぞは階段のステップすら存在せぬ尋常にあらざる特殊設計構造にして、然れば中心部分たる支柱を掴み、旋風脚を以て重力に従い一気に落下すべしと諭されれど、仮令高所恐怖症にあらねども、ふつふつ恐怖心湧き出ずるは当然ならん。その女性は、随分手慣れし按排にて、螺旋階段を旋回しつつ下りて行かれれば、最早その姿は点となり消え果てれど、何せ手摺も無ければ、私は未だ、まさしく腰抜けならん、腰を落とし一段ずつ恐る恐る下りるしか術も無し。まさしく死ぬ思い、這う這うの態を以て、漸く螺旋階段を下り切れば、その女性が待ち受けておられ、またしても徐ろに私の腕を取れば、曰く「では参りましょう。」
斯くして私の左腕を切り落とし、後生大事に抱えられれば、雑踏の中へ消え行かれし。
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西域より訪れし女
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