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Channel: 大ぼら一代番外地
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而して船は行く

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町家の2階に添えられし物干台に腰掛け、眼前に広がる内海に、ぽっこり浮かぶ鬼乳島を眺めつつ、ゆるり茶なんぞ啜れば、ふと高欄の端に、何やら妙な出っ張りを見つけし次第、興味本位に触れれば、その後ろに繋がれしかと思しきもやい綱が解け、遥か彼方へと飛び去れば、眼下の港に停泊せし帆船が、徐ろに出航せし様、もしや私がこのもやい綱を解きし故の不始末たらんや、然れどここは知らぬ存ぜぬにて通すが無難と思えば、その侭何食わぬ顔にて、物干台より内海を眺むるばかり。さりとて帆船が沖に消え行くを見つけし漁師共が、愈々血相を変え騒ぎ始めれば、私を指差し「あの戯け者を殺すべし」と、手に手に武器の如きを携え、今まさに階下の玄関を押し破らんとする有様、暴徒共に虐殺されては堪らぬとばかり、咄嗟に例の御題目を唱えるや、怒り狂う漁師共の姿は、たちまち愚かしき半猪半魚なる姿に豹変、ぶひぶひ唸りつつも、前脚のみの不自由な体なれども、体を反転するや、内海を目指し一目散に駆け始め、その侭勢いよく海へ飛び込むものなり。然れど哀れかな、その半猪半魚はどうにも泳げぬ有様なれば、成る程上半身が猪故、水中にて呼吸不可ならん、斯くして次々溺れ沈み行くのみ。息絶えしそれらの遺骸を網にて引き揚げる老人おれど、何とその身の丈は16尺に届かんばかり。合掌。


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