「ダイアン、2月24日午前11時30分、ツインピークスに入る。カナダ国境から南に8キロ、州境から西へ20キロ、こんなにたくさんの木を見たのは初めてだ。WCフィールズじゃないが、フィラデルフィアよりずっといい。薄曇りで気温は12度、予報では雨だ。的中率40%の予報で給料が貰えるとしたら、いい仕事だ。走行距離126951を少しオーバー、すっ飛ばして来たから、市内に入ったら給油だ。費用を忘れず聞いてくれ。昼食は6ドル31セント、ランプライター・イン。ルイス・フォーク近くの国道2号。メニューは、全粒パンのツナサンドにチェリーパイ、コーヒー2杯、こら美味かった。ダイアン、こっちへ来る事があれば、チェリーパイを試してみたまえ。OK、これから会う人物は、ハリー・S・トルーマン保安官、覚え易い名前だ。キャルフン記念病院にいる筈だ。山から線路に辿り着いてICUに収容中の女の子の様子を見る。終わったらモーテルに泊まる。保安官が清潔で手頃な料金のを教えてくれるだろう。要点は『清潔で手頃な料金』だ。ああダイアン、忘れるところだった。ここらの木の名前聞かなくちゃ。実に素晴らしいんだ。」
如何にも本日は、デイル・クーパー特別捜査官が、初めてツインピークスを訪れし日にして、ローラが告げし「I'll see you again in 25 years」即ち25年後の再会まで、愈々残す処1年(一説には今年とも)と相成るや、当時衛星放送されし吹替版を録画、昼夜惜しまず一気に全話鑑賞せしも今は昔、然れば25歳どころか30歳の青年達が、あの空前絶後のツインピークス・ブームなんぞ知らねども、是亦当然至極か。
昨夜は投宿先たるカムラさん宅へ午前3時半に帰還、即寝成仏すれども、明け方、猛烈な胃痛及び膨満感に苛まされ目覚めれば苦悶悶絶、はてさて何故か、昨年暮れに2食連続カツカレーにて轟沈せし以来、カレーを殆ど食らわぬ有様、然れば昨夜食せし「鶏肉と野菜のトマト煮込み」なるが災いせしか、今やラーメンに続き、洋風煮込み料理も敬遠せねばならぬ体質と成り果てしや。
苦悶しつつもあれこれ善処すれば、再び何とか就寝叶い、午前8時起床。些かの名残りこそ感ぜられれど概ね回復、朝飯を食らわんと、例のエコ仕様カップヌードル「どん兵衛 きつねうどん」召喚せり。
中身取り出しカップへセット、
湯を注ぎ3分待てば完成なれど、カップが小さ過ぎしか、些かつゆが塩っぱければ、果たして如何程の大きさのカップを用意すべきか、其処が以外にも難点ならん。
カムラさんが昼飯を用意下されば「納豆御飯+漬物+ブロッコリーの味噌汁+鴨焼飯」にして、出汁を取り得る食材少なき欧米なれば、ブロッコリーを芯共煮る事にて、野菜の旨味を引き出されにける秘策とは、流石は既に海外生活長き渡るカムラさんなればこそか。これが大いに美味なれば、一度日本にても試してみん。
今回の渡英に際し、僅か3公演を数えるのみなれば、スーツケース大小各1個の態勢にて臨まんとせり。スーツケース大には、押し並べて売り切れ御免程度の物販商品、更にギターを分解、クッション代わりに詰めし僅かばかりの着替え、これらを収納すれば、充分に規定内なる21kgにして、スーツケース小にはエフェクターやケーブル等機材一式を収納、こちらは更に軽量たりし15kg、斯くなる仕様にて渡英すれど、物販商品はほぼ売り切れ、ギターは粉砕すれば、スーツケース大はほぼ空状態と仮し、然れば機材一式詰められしスーツケース小を、スーツケース大に収納、僅かばかりの着替えやこちらにて調達せし食材も詰め、これにてマトリョーシカ人形宜しくスーツケース大1個に纏まるや、装備は概ね半分に縮小、これぞ名付けて「マトリョーシカ作戦」なり。何せ日本ー欧州間のフライトに関しては、手荷物2個まで無料にて預け得れど、本日のフライトは欧州内故、無料にて預け得るは1個なればこそ、斯様な作戦を出発前に練り上げし次第。
バスと地下鉄を乗り継ぎHeathrow空港へ。チェックインに際し、重量も23kgと規定内にて収まれば問題無し、このスーツケース大小合体せし「マトリョーシカ作戦」大成功に終わりし。
Heatrow空港登場ゲートにて待機中之圖。午後3時35分発ブリティッシュ・エアウェイズToulouse行き搭乗、約2時間の空の旅にて、Toulouse空港到着せり。
Audreyが迎えに来てくれれば、いざ彼女達のアジトことLa Mamiへ。料理上手なるBenjaminが晩飯を拵えて下されば「牛肉と野菜の赤ワイン炒め+ライス+アスパラガス」調理人たる彼に倣い、酢と唐辛子を施し食らえば、これは絶品至極、大いに美味なり。
サラダを忘れれば、Frédéricがチーズ共々盛り付け下さり、結局これをアテにワインなんぞ飲みつつ、皆して歓談。
医者を生業にされるFrédéric御母堂様も来られれば、フランス式多方向同時多発会話炸裂、
如何せん皆して同時に喋る複雑怪奇な会話スタイル、
一体誰が誰に話し掛け、果たして誰が誰の話を聞きしものか。
詰まる処、皆様手前勝手に話されし顛末、これぞエゴこそ美徳とするフランス式会話の極意と知れ。
然れば「郷に入れば郷に従え」とばかり、フランス語不自由にして全く侭ならぬ私も参戦せり。
然れどフランス語にて多方向より捲し立てられるも当然、況して英語なれば大阪弁の如く早口にて捲し立てられぬ不利さもあれば、呆気なく完敗にして、己れの不甲斐なき敗戦ぶりに乾杯なんぞと駄洒落にて御免被り候。
そもそも東洋医学に精通される医者にして、且つ「禅」に造詣深きFrédéric御母堂様と、見事に乗せられ熱き論戦繰り広げれど、最後は斯くなる笑顔の2ショット。この捌け方もフランス人なればこそ、下手すりゃ七生呪詛なんぞと矢鱈未練怨念執念深き日本人は、この点に関してのみ、フランス人に見習うも良しと思うものなり。
斯くして楽しき晩餐たるひと時過ごせば、大英帝国との僅か1時間ばかりの時差も加わり、時差ぼけ更に悪化せしか、未だ午後11時半なれど、御先に御暇させて頂き、ひとり消灯就寝せり。明日は、映像作家Amicが現在撮影中なるオクシタン・トラッドのドキュメンタリー映画の撮影に同行、あのオクシタン・トラッドの至宝Rosina de Peiraを訪ねる予定、彼女も来たる3月にて81歳を迎えるものなれば、斯くも再会の機会得られるは至福至高の極みなり。
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ダイアン、2月24日午後6時30分、トゥールーズに入る。
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